一見、民家のようで通り過ぎてしまいそうな外観
実は、やりがいのある介護の仕事を模索する起業家のオフィスである

スマートケア株式会社とは

浅井氏は、南区の出身であるが、介護福祉士専門学校の実習施設が北区にあり、縁があってその実習先に就職し、介護福祉士→ケアマネジャー(以降「ケアマネ」という)として介護福祉の仕事を20年近く携わる。その中で、アナログな業務の多いケアマネの仕事を合理化・効率化し、高齢者や障がい者ともっと向き合えるようにしたいと考えるようになってきた。3Kの代表のように思われがちな介護の仕事を魅力的でやりがいある仕事にしようということで2022年12月に起業し、スマートケア株式会社とネーミングする。現時点では、ケアマネに特化して「what's up」という事業所名で事業化している。キャッチコピーは「あなたの日常を支えます」で、4人のケアマネが在籍し、北・上・左京区を主に活動し、要介護の認定の出た方を担当している。

ケアマネの仕事とは

介護施設に勤務するケアマネもいるが、在宅で介護を必要とする方への介護計画(以降「ケアプラン」という)を立案することが主な業務である。制度的には、一人のケアマネが担当する利用者の限度は45名以内と定められている。

ケアマネは、単にケアプランを立案するだけでなく、日常的な悩みや不安など多岐にわたる相談を受けることも多い。ルーティンワークでない部分が面白いとのこと。

また、利用者一人一人との相性があり、同じことをしても人によっては合う合わないがある仕事でもある。それぞれの家庭ごとに事情が異なり、その中で、介護を必要としている方がケアプランを実践していく中で、元の生活を取り戻し、自身でできることが増えると手応えを感じ、やりがいも感じる仕事である。

本来は、計画立案をして介護保険サービスを調整することが主な仕事であるが、時には現場にも駆けつけることもある。ヘルパーさんから連絡があり、緊急対応することもあるとのこと。一例として、ドアの内側のチェーンがかかったまま、家の中で倒れている方を救出したり、独居の高齢者の孤独死に立ち会うことなども稀にある。

ケアマネの仕事そのものを知らない人も多いので、業務内容の情報発信をし、ケアマネの仕事は大変だと思っている学生さんなど若い世代に伝えたり、すでに介護の現場で働いている方にも魅力を伝え、関心を持ってもらいたいと思っている。

スマートケアとは

浅井氏も含めてスタッフ全員が子育て世代であり、ご主人が単身赴任で3人の子育てをしながらも、会社のSNSを見て「ビビッときた!」と問い合わせがあり、雇用に至った女性ケアマネもいる。その女性ケアマネの場合は15名ほど担当してもらい、保育園の送り迎えや学校行事への参加、体調不良時の在宅ワークなども融通をきかせ、生活スタイルに合った働き方ができる業務スタイルにしている。こういった働き方はケアマネだからこそできるのではないかと考えている。

また、事業所内のケアマネができるだけ快適に仕事ができるように工夫している。膨大な資料作成に追われるケアマネ業務で発生する紙をなくすために、電子データで保存したり、必要最小限の資料だけ印刷したりとペーパーレス化に取り組んでいる。利用者宅を訪問する際にはタブレットを持参し、その場で記録し、帰社してから転記することのないようにしている。訪問先によっては、直行・直帰も認めるなど、できる限り効率的に仕事ができるようにしている。

45名の利用者を担当しつつ、空いた時間で副業をしているスタッフもいるため、ゆくゆくは歩合制にして自身の能力や生活スタイルに合わせた給与体系も検討している。

デスクワークの簡略化にも取り組んでいる。病院や施設、行政等に提出する資料は多様な書式があり、それぞれに情報入力する必要があるが、同じ内容を記載する箇所がある。それを、エクセルで処理して、最初の基本情報を入力することで、すべての書式に反映するようにしており、将来的にはソフト化したいとのことである。煩雑なデスクワークを簡略化し、利用者に向き合う時間を多くとることによって、やりがいを感じられるようにしたいとのことである。

国も、ペーパーレス化に向けたデータの連携システムを構築している。資料をデータで受け付けるシステムを作ってはいるが、それを使っている事業者が極端に少なく、北区で数事業所だけという状況であり、連携できないでいる。最初に導入する際の手間はかかるが、土台ができれば後は不要な業務は減らせることが分かっていても、日々の業務に追われ、なかなか新しいシステムに対応できないでいるのが福祉の現場の現状である。

例えば、訪問介護の事業所選びにおいても、一か所ずつ聞いて、断られたら同じことをまた別の事業者に問い合わせていくという手間のかかる作業がある。そのため、前に所属していた法人が京都市補助金をもらって、登録されている事業所に依頼を一斉送信し、受けてもらえるところに手を挙げていただくシステムを作ったことがある。120事業所ほどに登録をしてもらったが活用できていない。結局、人間関係のあるところでないと対応してもらえないというのもあり、目で見て、体で感じた事業所さんに対する信頼が基本となる業界であるように思う。

今後、若いケアマネさんが増えて、業務のIT化が進むことを期待している。加えて行政が音頭を取って合理化を促進することにも期待をしている。最終的にはセキュリティーや個人情報保護の問題が一番大きな課題であるとのこと。

今後の方向性

歩合制の導入などにより、各ケアマネがライフスタイルに合わせた働き方をすることによって、ケアマネという職業を気軽に楽しくやりがいを感じて仕事ができるようにすること。そして、業務のIT化を導入することによる合理化を図るなど、スマート(賢く)ケア(介護)をますます進めていきたい。

そのことによって、ケアマネの仕事を多くの人に知ってもらい、若い人の選択肢の一つにしていくことを目指している。

浅井氏自身は、お金に執着がなく、仕事の環境や人とのより良い関係づくりということが満たされることのほうが大切だと考えており、支援する側の環境や待遇など支援者を支援することに興味・関心がある。

将来的に、仕事がなくなるということはないと考えられるが、国の制度としてのケアマネの待遇は改善されていない。だからこそケアマネという仕事の魅力発信を進めていきたいという思いがある。北区に在籍するケアマネの有志が集まり「北区ケアマネ魅力みつけ隊」という活動を行っている。現在ケアマネとして従事している人には辞めないように魅力の再構築をしたり、新人ケアマネが辞めないように新人目線のマニュアルを作るなどの活動をしている。さらに次世代向けに、小中高校生にケアマネの仕事を知ってもらったり、社会福祉学科の大学生や看護学生などには、アンケートを取って、ケアマネのイメージや業務内容の認知度を聞くと同時に、ケアマネの資格取得方法の啓発などを行っている。

また、「認知症サポーター養成講座」の中でケアマネの業務紹介をしたりと活動している2023年9月には北大路イオンのセンタープラザで「京都市北区・上京区在宅医療介護連携支援センター」の主催事業に「北区ケアマネ魅力みつけ隊」が呼ばれて、ケアマネのシンポジウムを開催した。今後は、紫野包括支援センターで「質の向上チーム」として、現役のケアマネがケアマネとして大事にしていることや、やりがいにしていることなどについて話し合いを予定している。こうしてケアマネの良いところをどんどんと発信し、やってみようという人ができるだけ多く出てきて欲しいと思っている。

浅井氏の会社としては、ケアマネの働き方を見直し、ライフスタイルに合わせたフレックス勤務や担当件数に応じた報酬があるという仕組みを整備していこうとしている。各種社会保険制度もしっかりと整えつつ、仕組みづくりに取り組んでいる。

また、ケアマネの事務作業を省力化する便利ソフトを開発してみたいとも考えている。そうすることによって人でなければできない仕事が明確になると同時に、やりがいのある仕事ができるようになる。

大いなるチャレンジーである。