
新大宮商店街沿いの緑のドアを開けると
「ゆるーい」ものから「アバンギャルド」のものまで
独特の感性の手作り一品物のpop.pop.popの雑貨、クローズが並ぶ
必見のアトリエ兼ショップの「hirune studio」

hirune studio
2024年4月にオープンした「hirune studio」は、本田北斗さんと小枝由佳さんが創作する雑貨・Tシャツ・ジャケット等のブランド「pop.pop.pop」のアトリエ兼ショップである。
印象的な緑のドアを開けると、店内には、ゆるーい脱力系の作品から、気合の入ったアバンギャルドなものまで一言では表現できない雑貨や服が並んでいる。その中で一点物の作品がが制作されている。
展示されている一癖あるTシャツは、スプレーでデザインしたり、分割して再度、縫製したりしており、今の一押しの作品である。
協働して創作活動をしている「一般社団法人暮らしランプ」の一部門である「atellier uuu」の利用者さんが週2回、水曜日と木曜日に来られて一緒に創作活動しているとき以外はお店は閉まっていることが多い。本田さんたちが創作活動に集中されている。
ヘルパーからアートディレクターへ
本田さんは、元々、障害の在る方のヘルパーを15年くらいしていて、移動支援や居宅での生活介助などをしていた。そして、面白いものを制作している人たちと触れ合う中で、自分でも創作してみたいと思っていた。
本田さんは、子供の時からずっと布が好きで、布を買い集めており、母親も裁縫や編み物が好きで、子供のころの服やセーターは皆、母親の手作りであった。そういう環境で育ったので布とか服飾が好きになった。
パートナーの小枝さんは、テキスタイルザイナーで浜大津でアトリエサンゴという布屋さんをしていた。そこを紹介してもらって生地を買いに行ったのが出会いである。すごく可愛らしい布を作っておられて、本田さんが介助の利用者さんと一緒に大量に買いに行っていたのでびっくりされていたとのことである。
そして、ヘルパ-をやりながら、小枝さんの布を使って、カバンや財布など簡単な小物は制作して、それを周りの人にあげていた。当時、手作り市が盛況だったので、いつかそこに出店してみたいと思っていた。そして、一緒にやっていた小枝さんにいろんなことを教えてもらって、出店できるという実感を得て、9年前に、ヘルパーからpop.pop.popのブランドを立ち上げることになった。好きなことを仕事にするという自然な流れであった。
本田さんたちは、オリジナルで布から制作し、デザインし、作品は企画展やイベントに出店をしていた。
pop.pop.pop
基本的に布から作れるものを制作している。その中でも靴下は昔から作っている定番の作品で、pop.pop.popがデザインして奈良の広陵町で作ってもらっている。この靴下は、浄土寺にあるホホホ座という本屋や新風館のトラベラーズファクトリーなど京都のお店で扱ってもらっている。他の作品は、卸すほど数を作れないので、自分たちで直接、展示会や企画展、イベントで販売している。
本田さんたちが使う布は、京都の捺染工場で手捺染で手間をかけて染めてもらっている。いわゆるプリンターによる染では風合いが出ないので手捺染こだわっているとのこと。けれども、最近は職人の高齢化により手捺染で染めてもらえるところが少なくなっている。しかもコストも高騰しているので、個人のブランドで小ロットの生地なので、普通の生地の価格と比較すると6倍くらいになる。
このため、布だけを売るのではなく、きちんとデザインした製品として、その価値をお客様に評価してもらわないといけない。
展示会や企画展ごとにテーマを決めて、そのテーマに合うものを制作している。今は9月に東京の墨田区のギャラリーで京都に住んでいた「はまぐちさくらこ」さんという画家との合同展に向けて絶賛製作中である。
いま、障害の在る方に作ってもらっているスカイツリーの刺繍の入った布は、珈琲パックを入れる可愛い巾着袋になる。みんなで一生懸命作って販売したいと思っている。障害の在る無しに関係なく、他のアーティストの方ともコラボをして企画展を開催している。特に障害をお持ちの方と一緒にということは決めていない。面白いことをやる人たちと一緒にやるということが基本である。

今は、Tシャツや小物が中心であるが、冬に向けてはジャケットやベストを作っている。秋、冬の定番商品としては、御池通に面して、本能寺の向かいにあるD_MALL kyoto(ディーモールキョート)という洋服屋さんから生地をもらってドテラ風のライダースジャケットを製作している。

そして、時代祭りの前後2週間くらい、そのD_MALL kyotoに製品を置いてもらっている。海外からのお客様に人気である。
最近始めた表現方法として、播州織の生地を重ねて、針でついてフェルト状にした生地を使って面白い風合いを持つベストを作っている。播州織の工場で織物を製作していた知り合いのデザイナーの紹介で播州織を知ることになった。今後は、この方向も伸ばしていきたいとのこと。この生地を使って京都の他の作家とコラボして何かを作ろうと画策している。

今は、京都の手捺染から織の方に関心が向いており、播州織でオリジナルの生地を作ってもらっている。
全国のイベントに出店しているが、京都の下鴨神社の糺の森で毎年秋に開催され160店舗以上が出店する左京ワンダーランドが最大のイベントである。そこに向けて作品作りを行っている。
pop.pop.popのエリアを持たせてもらって、知り合いのアーティストを呼んで、世界観を作っていけるようになった。それで、一緒に活動している暮らしランプさんに出店してもらったりしている。
愛知県の蒲郡で開催される「森、道、市場」という50組くらいのミュージシャンが参加する音楽イベントに毎年、参加している。全国の面白い店が集まってくるので普段会えない人と繋がりを求めて参加している。
pop.pop.popの立ち上げ当初は、好きな歌手を呼んで音楽イベントもやっていて、京都だったら新烏丸通丸太町下がるにある「ボンジュール現代文明」というイベント・ギャラリースペースを借りて音楽イベントとマルシェを展開した。また、当時、住んでいた大将軍にあるノブというシェアハウスの屋上で音楽イベントとマルシェをやったところ、たくさんのお客さんに来ていただいた。お客さんの中にホホホ座の山下さんがおられて、それが縁となり、定番の靴下を置かせていただくことになった。
今でも音楽イベントはやっている。12月には暮らしランプさんの就労継続支援B型事業所「こきゅう+」にはピアノが置いているので、そこで寺尾紗穂さんをお招きして音楽イベント企画している。
一般社団法人暮らしのランプとの協働
取材に訪ねた時には、タッグを組んでいる「一般社団法人暮らしランプ」の部門である生活介護「atelier uuu」に通う障害をお持ちの方が、お二人の指導を受けながら作品の制作に取り組んでおられた。週に2回(水、木)通っておられるとのこと。暮らしランプさんは、ここがオープンした時から来ていただいている。

暮らしランプさんの取組は福祉の世界でも有名で、とりわけ長岡市の「なかの邸」という国登録有形文化財の建物を活用して就労継続支援B型事業所として珈琲の焙煎やおばんざいの提供、藍染めの販売等をして、すごく流行っている。いろいろな病院でも藍染めの作品を販売もしている。そういうところと一緒に何かできたらいいなとずっと思っていた。暮らしランプは設立されて10年程度の比較的新しい事業所である。
atelier uuuは、生活介護の事業所ということで、園芸療法活動や創作活動、珈琲の販売などを中心に活動している。uuuという名前は、創作活動をするときに思わず漏れる「うー」という声を施設名にしたとのこと。

ご縁が紡いだ出店
この場所を紹介してもらったのは、近くの町家を5年かけて改修を行ったにもかかわらず、現在、三条先斗町で山福というレストランをしている雷太さんである。その改修された町家は別の方が「British Brunch 山荷葉」というお店を開業しておられる。雷太さんとは二人とも出身が山科で、母親同士が「親と子の劇場」という子供たちに芝居を見せる活動をしているところで働いていて、雷太さんはそこの会員だった。何十年も前から雷太さんと本田さんの母親同士が知り合いだったことが分かって、以来親しくしてもらっている。彼から本田さんたちの前にピザ店を経営していた「03slow café」さんが2軒南隣に移転して店が空くからここに来て、モノづくりしたらいいのではないか。そしてここを面白い場所にしていこうという話になって、店を構えることになった。何かここから発信していけるのではないかと思った。
これからのhirune studio
「atellier uuu」が毎週水曜日と木曜日に来る日以外は、お店は基本的に閉めて制作に集中している。たまに店を開けると、知らない人が入ってくる。
この場所は、元々、飲食店だったので、許可をもらって、他の人に任せて飲食提供をすることも考えている。そのためには、早めに飲食営業の許可をもらって、ふらっと入ってくる人に珈琲を提供したり、いろいろなイベントをするときに食事や飲み物を提供したい。いろいろな人がゆっくりできたり、モノづくりをしたい人が集まって一緒に考えるなど、面白いものを作りたいという人が集まる場所にしたい。今もなっているが、もっとその機能を充実させたい。
むらさきエリアの価値
新大宮商店街の「朝ごはん ふく」の平元さんのご紹介で関西の情報誌「SAVVY」に掲載してもらったり、精華大学の大下先生にご紹介してもらったりして、いろいろな活動をしている人がいる地域だなと実感している。船岡山でビル1棟買って、音楽やアートができる場所に改修している人があると聞いている。
ここに来た時に、道も広いしすごくいい場所だなと思った。すでに成熟している左京区とは違って、このエリアには発展していく可能性があると思う。新大宮通玄以の「ものや」さんも若い人が集まっていて面白い。今、紫竹が熱いと思っている。それで、空いている古い家がたくさんあるので、若い人や作家さんが集まってくるような場所になればよいなと思っている。
そういう意味でも、空き家に新しい面白い人が入ってくるといいなと思いながら、空き物件を見ている。
ちょうどいい感じ。うるさくもなく静かすぎることもなく。この道がいい感じだ。
むらさきスタイルプロジェクトの価値観を体現している人たちで、今後の益々の活動の広がりが期待される。

基本情報
■pop.pop.pop
・住所 〒603-8208 京都市北区紫竹西桃ノ本町33-2
・定休日 不定休(最新情報はSNSよりご確認ください)
・営業 水、木オープン(最新情報はSNSよりご確認ください)