新大宮商店街に新しいカフェができた

と思わせる素敵な外観

ここが、障害を持つ人と地域社会との接点です

明るい笑い声が表に届きます

GRAIN

 GRAINは、障害者総合支援法で定められた就労継続支援B型と呼ばれる事業所である。病気や障がいがあり通常の就労が難しい人を対象に、就労機会の提供と職業訓練を行っている。A型とは異なり、雇用契約を結ばないため、必要なサポートや作業量などが考慮され、よりその人の体調や希望にあった、働き方ができる。

 10年前に設立したサクセスフルエイジング株式会社の事業所の一つとして2024年12月にGRAINを立ち上げる。会社の設立と同時に立ち上げた訪問介護まごのて北山で障がいを持つ人の親御さんの切実な悩みに接してきた。その悩みの一つが住むところで、親が死んだあと、どこに住めるのか、誰のサポートを受けながら住むことができるのかというご心配である。いま、一つが、働き口である。居場所でもるが、障害を持っておられる方であっても、働いて賃金を得たいという声をよく聞くのでそういう場所を作りたい。加えて居場所でもあり、地域との繋がりを持てる場所を作りたいと思ったのでGRAINを立ち上げることとした。

 GRAINという名前は、一粒という意味であり、一粒から皆がつながっていける事業所でありたいという思いから名付けた。
 ここでは、ドライフルーツの製造と販売と珈琲の焙煎販売等を行っており、この店と、ゼスト御池や洛北阪急スクエアなどの催事でも販売している。珈琲は豆だけでなく、テイクアウトも行っており、美味しい珈琲を提供するためにスタッフで試行錯誤して、やっと皆さんに提供できるようになった。さらに、レンタルバイクのCREWさんのポートの自転車の清掃もお引き受けしている。

 GRAINの利用者は、15名程度で、18歳から70歳まで幅広い年齢層で、中、軽度の障がいをお持ちの方が、北、上、左京を中心に通っていただいている。

 スタッフは、小谷さんの他に、代表の木下さん、正社員1名、パートさん2名の体制で運営している。これまで、介護訪問を行ってきた御縁で相談員さんやケアマネジャーさんのご紹介、さらには北総合支援学校等の紹介で通っておられる。

 取材に伺ったのは正午であり、休憩時間を利用して、通所されている方のお友達が来所され、表に椅子を出して楽しくおしゃべりをしていたり、帰り際の作業所ではスタッフの方も含めて、和気あいあいと作業されていた様子が印象的であった。

 作業所としての登録時間は9:00~18:00。通所者の作業時間は月~木曜日は10:30~15:30で、金曜日は10:30~14:30としている。

 そして金曜日の18:30以降、作業所としての登録時間以降に職員でBarを開いている。介護で悩んでおられる方や福祉系事業者の方からの相談や悩みを聞いている。また、福祉施設等の入所者はお酒を飲みに行けないので、送迎付きで来てもらったりしている。採算度外視で、お互いに繋がれたらとの思いでお店を開けている。食材は、少しでも売り上げに貢献できたらと、新大宮商店街や、同業の就労継続支援の事業所から仕入れている。

作業所の面積で定員は20名と決まっているが、オープンして少しづつ利用者の方が増えてきているとのことである。

小谷 樹幸

 管理者の小谷氏は、高校卒業後、福祉の専門学校に進み1999年に卒業以来ずっと福祉事業に携わってこられた。最初の職場は二軒茶屋にある洛北病院であった。当時、病院では看護師さんが主導的立場にあるので、介護士が十分に活動できないという状況にあった。また、当時は、仕事がきついわりに休みが少なく、低賃金なので、結婚を機に辞めて看護師に転職する男性介護士が多かった。そうした中でも介護士としてやっていきたいという思いが芽生えたので、介護士が中心の職場である特別養護老人ホームに移り、約10年間そこで働くことになる。

 しかし、施設にいると、一人で大勢の入所者のケアをすることになり広く浅い仕事となる。また、入所者の方々も「家に帰りたい」「家で終末を迎えたい」とおっしゃる方が多い。国の統計でも約7割の高齢者が「家族に面倒をかけないのであれば家で暮らしたい」と望んでいる。一方、子供の世代も子育てその他で忙しいので「ワンオペでは無理だが、誰かがサポートしてくれるのであれば家で親を見てあげたい」と望んでいる。そうした意向をお聞きすることが訪問介護事業に取り組む契機となる。

 特別養護老人ホームでは施設の決まり事に入所者が合わせていただくが、訪問介護では、介護士がお客様の生活のリズムに合わせることができる。中には、家中がゴミだらけにしておられる方や、家具、什器の配置が不合理な場合もあるが、そうした状況を否定するのでは無く、その人らしい生活を支えることができるところが訪問介護の良いところであるとのこと。

 人工呼吸器をつけて寝たきりの方でも訪問介護で自宅での生活を可能にできる。痰の吸引をしながら、散歩などの移動支援を行っている。

 小谷氏の発想では障がい者も体の不自由な高齢者の方も特別な人ではなく、個性だとのこと。歩けない方でも、ただ、車椅子に乗っているだけのことで、普通のことだと思われている。片付けられない方や言葉のきつい方もその人の個性としてとらえておられる。

 サクセスフルエイジング株式会社に入社後、障害者総合支援法のサービス管理責任者という資格を取得する。就労継続支援B型事業所にはサービス管理者が一人必要であるので、GRAIN設立と同時に管理者として、GRAINを引っ張っておられる。 

サクセスフルエイジング株式会社

 小谷氏は2014年に代表取締役の木下氏とともに、サクセスフルエイジング株式会社を立ち上げ、まごのてグループのフランチャイズとして訪問介護まごのて北山を開設した。この事業所では、介護保険法に基づく入浴、食事、排せつの介護などの「身体介護」、調理、洗濯、掃除の家事などの「生活援助」の他に、障害者総合支援法に基づく、散歩、映画、旅行などの「移動支援」など、在宅でのあらゆる生活支援を行っている。

 その後、ケアマネジャーの活動拠点である居宅介護支援北山を立ち上げ、2024年12月にGRAINを立ち上げ、さらに2025年1月には訪問看護ステーションLikeを立ち上げ、看護師が自宅に訪問して、その方の病気や障がいに応じた看護を行います。主治医の指示を受け、病院と同じような医療行為も行い、自宅で最期を迎えたいという希望に沿った看護も行っており、高齢者、障がい者のあらゆるご要望やご相談に対応できる体制を整えてきている。

今後の取組

 介護業界は、一般に3K職場といわれ、きつい、汚い、給料安いというイメージがあるが、長くこの業界にいると3年に1回の法改正で徐々に良くなっているとのこと。確かに平均賃金はまだ十分ではないが、結婚するから仕事を辞めなくてはいけないということではなくなっている。他の業種と違うのは、世間での理解度であり、3Kのイメージが先行しているので、職員の希望者がいないことが課題とのこと。ただし、リーマンショックの時のように不景気になると就職希望者が増える。志をもって、専門の大学を出た方は別であるが、一般の大学の卒業生は、一般企業での求人が増えてくると就職を希望する人は減少する。

 人材の発掘をするため、ラジオ(京都ラジオカフェ クスクラッチャ-)をやってみたり、ユーチューブで社会に発信をしている。そこでは、ことさらにやりがいを発信するのではなく、賃金も普通だし、様々な人との出会いも楽しいし、いろいろな事業に携われて面白いということを発信している。

 ヘルパーひとりの力では何ともならないが、ケアマネジャーがいて、先生がいて、看護師さんがいて、理学療法士がいて、家族がいて、横のつながりを大事にして、その方を支えることができている。その人の生活の質を高めたり、身体機能が改善できるところが面白い。

 障がい者の方と旅行に行くことはリスクがあるが、その方法を皆で検討して旅行に行けた時の家族の方からの感謝の言葉や、自らの達成感は何物にも代えられない。

どのようなご要望でもまずはあきらめないとのこと。お金の問題になると諦めないといけない事もあるが、日々の暮らし、食事などは、いろいろと工夫して、食材の使い方や、望ましい食生活の提案などを行うことは楽しい。それでも、実現できない時もあるがその人が悪いのではなく、制度が対応できていいないことも少なくない。その時には、京都市や京都府と協議をして制度が改善されることも少なくない。

 医療的ケアの取り扱いなどが最たるもので、現状、介護士ができることは吸引だけであり、インシュリン注射や家族ができて介護士ができない医療的行為が多く存在する。けれども、10年後には多くの医療的ケアが可能なると考えている。医師が減って、看護師が減ってくると、医師の行為を看護師に、看護師の行為が介護士ができるようにならざるを得なくなっているとのこと。現に、かつてはできなかった吸引ができるようになったり、病院に入って看護師の業務をサポートしたりできるようになってきている。

 京都市が変わって全国に波及することもある。このためには、どの窓口からアプローチするのか、あるいは大きな声とするために数を確保するために組織を整備したりしている。国に対する窓口として全国介護事業者連盟が結成され、その障害福祉事業部会京都府支部長が木下氏で、小谷氏は事務局次長を務めておられる。

 職員が楽しくて賃金も充実していないと良い介護はできないので、しっかり稼げてやりがいのある職場にしていくことを目指している。

 さらに、新大宮商店街や地域の活性化にもかかわっていきたいと考えている。そのためには、地域の人たちが思いを一つにして、一緒に活動することが大切であるとのこと。その際、大学生と一緒に活動することにより、学業の面だけでなく、実益も含めて双方がウィンウィンの関係を構築し、さらには、起業を志す大学生には、まごのてグループのネットワークを活用してサポートすることを通じて地域貢献をすることも展望している。

 GRAINとしても、魅力ある商品づくりと共に京都市や高島屋、伊勢丹といったところにも販路を広げ、社会的に意義のある誇りを持てる職場としていくという展望を熱く語る小谷氏であった。

基本情報

就労継続支援B型 GRAIN
〒603-8205 京都市北区紫野門前町1-1
TEL: 075-286-0370
Instagram:https://www.instagram.com/grain_kyoto/
定休日:土日祝日
開所時間:月~木10:30~15:30、金10:30~14:30