木づくりの外観が優しい
センスの良い木工製品が並ぶ店内も楽しい
てづくり庵 HATA
てづくり庵HATAは新大宮商店街の中ほどにある手作り木工製品を販売する店である。今から14年前の2010年にオープンした。当時の新大宮商店街は、今とは違って、まだ、日用買回り品の多い商店街で、こうしたクラフトのお店は珍しく、目を引く存在であった。
店内には、秦さんが手作りした木工製品が並んでいる。アクセサリーなどの小物や食器、什器、室内装飾品等、実に多様であり、美しくデザインされている。 店の奥、エプロンをかけた秦さんが座っている周りは木工具が取り囲み、電動の糸鋸機が据えられ、工房ともなっている。
ご自宅は、左京の下鴨にあり、午前中はご自宅の工房で作業をし、昼から夕方までこの店におられるとのこと。ご自宅の工房には、しっかりとした機械工具が並び、大きな机や椅子などの家具を作ることができるそうである。大きな音と埃が出る機械を使った作業は自宅工房で行い、この店では仕上げ程度の作業をされている。
材料は、最初は、京都の銘木屋さんで購入していたが、最近は、インターネットの通販やオークションで購入している。
手作りをする人として道具の手入れをしっかりとされることからノミや鉋の刃先を研ぐことが多いため、その技術を生かして木工の傍ら包丁などの刃物の研ぎも引き受けている。秦さんが研いだ刃物は切れ味が良く、一度、この切れ味を知った人は、リピーターとしてお店に来られるという。
木工に親しむ
子供のころからモノを作ることが好きで、いろいろなものを作っていた。そして何より木が好きだった。木の味わいとか色、木目の美しさなどに惹かれて木を触っていた。木を磨いているだけでも楽しくなる。磨けばどんどん木目がきれいになるところなどは木の魅力である。
大学卒業後は、大阪の建築・土木設計の会社で橋梁やプラント、配水池などの土木構造物のデザインを担当する土木エンジニアとして活躍され、現役の時から退職を挟んで8年間くらい、某国立大学で土木構造物のデザインの非常勤講師などもしていたので、それなりに充実していた。
木工を本格的に始めたのは、1990年くらいからなので、30年余のキャリアということになる。始めるときに、中途半端なものを作っても家人に迷惑になるので、やるなら本格的なものを作ろうと思って、工具などをそろえ始めた。そうした時に、たまたま奥様の友人の弟さんで指物師をされていた方がお亡くなりになり、持っておられた道具一式を譲っていただいたということもあり、道具の手入れは大切にしている。
また、その頃は、アマチュア木工への関心が高まり、関連雑誌や機関紙が発行され、インターネットでの木工機械や道具の販売が始まりだした時期で、それらを見ながら工具を買い求めて独学で木工を習得していった。
自宅で木工をやっているときには、知り合いにもらってもらえるようなものを作っていた。その時の作品をファイルに閉じておられるが、天然一枚板の机とか、収納家具、子供用の木のおもちゃやドレミファ椅子など多岐にわたるが、どれもセンスが良く、多くの人に喜ばれたであろうことが想像される。とりわけお子様向けの組み合わせ椅子などは、子供たちがそれを使って遊んでいたとのことである。作品の多くは、引越祝いとかお子さんの誕生祝などにご利用いただいている。
最初は主に家具を製作していたが、それだけではお客様が限られるので、インテリアとなる照明器具や遊具、小物なども作るようになる。
秦さんの強みは、自分でデザインできることにある。本職であった、土木構造物のデザインをしていたキャリアが生かされている。自分で綺麗な形をイメージして図面にすることができる。そのため、お客様のご要望に応えて木工製品を製作することができる。
開店
少し早く退職をして、この店を始める。会社を退職後、飛騨高山にあった木工の専門学校の短期コースで主に機械の操作方法などを学んだ。 設計事務所での勤務が長くなったときに、友人と一緒に楽しむゴルフなどの趣味もなく、一人でコツコツと何かをやっていることが向いているので、会社を退職した後にやることが無くなることは避けたいという思いがあった。また、子供もいなかったので、その点は比較的自由であったので、それまで趣味でやっていた木工のお店でもやろうかと思った。今から思うと、この店をやってなかったら、何をしていただろうかと思うことがある。
最初は自宅の近くでお店を探していたが適当なところがなく、自転車で探しているうちに、この店と出会う。商店街だからお客様も多いかと思ったがそうでもなかった(笑い)。
奥様も、お店を出すことに反対もなく、秦さんが毎日やることがあることを喜んでおられるとのこと。
開店するまでは、身体の不自由な方の自助具を作るボランティア団体に所属して、会長をやりながら4~5年活動をした。市内のいくつかの病院のリハビリの先生方と協力して、様々な道具を製作した。手首の曲げ伸ばしを促したり、握力を鍛えたり、内側に鏡を貼って、脳の錯覚を利用して動かなくなった腕を動かすミラーセラピーと呼ばれる道具などを製作した。
地域との関り
お子様やお孫さんなどに贈り物としてお求めになるお客様が多いように思うとのこと。時々、海外のお客様がご自分用にお買い上げになることもあった。
最近、近くでお店をオープンされた登山中にマグカップを使って珈琲を美味しく入れるための注ぎ口を作っておられた樂歩京都のお店に設えた作業机は秦さんの作品である。
この商店街も当初よりは新陳代謝が進んで、新しい店が増えてきている印象がある。両隣の店も業種が変わり、飲食店も増えているように思う。 商店街全体の組合の他にブロック毎のグループもあり、秦さんのお店はセンター街のブロックのメンバーとして、活動をしていた。販売促進のキャンペーンをしたり、夏祭りの時には皆で焼そばの屋台を出して、
終わった後は打ち上げなどをやっていたが、コロナで全ての活動が休止状態となっているのは少し寂しい。
今後のてづくり庵HATA
この店をたたんだら、各地でやっている手作り市などに出店しているかもしれないが、今は、この店での暮らしを楽しんでいる。身体の続く限り、この店を続けていきたい。 木工の仕事は結構体力が必要であるとのこと。特に大きな机や家具などを作る際には、重い木材を持ったり、丸鋸などの機械を操作したりしなければならず、怪我をする可能性があるので、適当なところで決断をする必要があるとのこと。車の免許を返す感覚に似ているのかもしれない。
店舗情報
〒603-8222
京都市北区紫竹西高縄町4番地
TEL: 090-8127-1444
営業時間:月~土(12:30~16:30)