大徳寺通今宮の南東角に

ひときわ目立つ竹暖簾の京町家がある

虫籠窓と煙抜きの越屋根の付く立派な京町家で若者たちが行動を起こそうとしている

荒川家住宅

HATCH京都が活動拠点としている京町家は、旧大宮村の村長をされていた荒川家の本家であった。現オーナーである荒川朋彦氏の曽祖父、荒川彌一郎氏が明治36年に主屋と蔵を新築して以降、大正大礼の宿所として大正3年に大裏(おおうら)と呼ばれる座敷棟を新築し、昭和8年に彌一郎氏から家督を継いだ嘉三郎氏が新築(しんだち)と呼ばれる平屋の座敷棟を新築して普請を完結させたとのこと。

主屋は間口4間、奥行5間半の一列3室で通り庭は2間と幅広く、そこには黒タイル貼の5口のおくどさんがすわる。2階は、平成7年に改装され、浴室や台所などを設けて住居として使われた。

大裏の2階は、従者に提供された客間としてふさわしい立派な設えとなっている。縁側に出書院を設ける床脇には天袋・違い棚を設け、地板、違い棚共欅である。床の間は床柱・床框・狆潜りを黒檀で統一されている。落とし掛け、天井は杉で、床板は欅である。様々な部位に使う材を、黒檀、欅、杉に絞り込んだ様には格式があり、立派な襖絵もそのままで残っている。縁には欄干を立て、外部に開放的な数寄屋普請の趣があり、外側には昔ながらの板ガラスの建具が建てられている。

荒川家本家から新時代に生きる建物へ

朋彦氏の叔母様が本家で一人暮らしをしていたが、亡くなった後に空き家となっていた。朋彦氏も別の場所に住まいを構えていたので、荒川家として利用する者は無かった。そこで、家族で話し合い、奥深い敷地に建つ立派な京町家で使いにくいところもあるが、上手に使っていただける方に、思い切ってお貸ししてみようということになった。

最初にお借りいただいた方は、京都市内で旅行観光業をされている事業者さんで、主屋のみお借りいただいた。けれども、コロナ禍で賃貸借契約が解消された。その後、敷地内全体を一体的にお借りいただける方を探した際に出会ったのが、株式会社CASEさんであった。2021年のことである。代表の近藤氏と話をしたところ、朋彦氏が思っていた本家の活用方法に似つかわしい計画を持っておられることが分かった。それならば、この方に、この会社に借りていただこうということでいろいろな準備をしていった。

近藤氏の構想は魅力的で、新規起業を目指す若者たちが寝泊まりをしながら、起業家となっていく起業家支援塾という構想であった。最終的には、起業家支援塾、塾の食堂を兼ねるコミュニティカフェ、住宅宿泊施設、物販、事務所という5つの機能を有する施設として再生することとして、近藤氏に建物を賃借することとする。

けれども、この京町家は、建築基準法以前の既存不適格の建物であったので「京都市歴史的建造物の保存及び活用に関する条例」を活用して文化財級の京町家の意匠を残しながら、かつ京町家にふさわしい耐震、防火対策を施しながら新たな用途として活用することを前提の条件とした賃貸借契約を締結した。 

その後、工事に着手し、京都市の完了検査を経た後、最終的に改修工事が完了したのは2022年12月のことであった。

HATCH京都の誕生

CASEの代表の近藤氏のアシスタントをしていた横井さんは、友人と2023年のゴールデンウィークに京都に遊びに行くこととし、せっかくならCASEの拠点の一つであるHATCH京都に遊びに行くこととした。

その時、HATCH京都として活動するために各種の許認可を得る必要があった。そして、そのためにはCASEの社員が管理人であることが必要だということになっていた。横井さんは、HATCH京都は素敵だなと持っており、そのことを聞いた代表から管理人になってみないかと誘いを受けたことが、始まりである。

許可申請の担当となって様々な課題を整理し申請の窓口に何度も通った。ようやく許可を得て、HATCH京都の当初の計画通りにスタートすることができた。HATCH京都の誕生である。

HATCH京都の活動

HATCH京都はシェアハウス(起業家支援塾)と宿泊(住宅宿泊事業)と飲食営業ができる複合施設となっている。現在は、シェアハウスの入居者が7人いて、時に宿泊者にご利用いただき、近所の方がカフェにお茶を飲みに来ていただいている。

入居者はユニークな人が多い。例えば、横井さんが管理人となった当初から入居しているイラストレーターは、ここを拠点としながら近隣のイラスト制作をしたり、近くのコミュニティスペースの新大宮広間で働くなどしながら、むらさきスタイルプロジェクトの担い手となると同時にスキルを高めていっている。

また、HATCH京都の認知度を高めたり、関わってくれる人を増やすために、HATCH京都でご飯を食べるイベントをしている。先日は、新大宮商店街にある新大宮広場というレンタルキッチンで、「出張版HATCHの夜ご飯」というイベントして、いろいろな方に集まっていただいた。

みんなでご飯を作って食卓を囲むということは、HATCH京都の特徴で横井さん自身も気に入っている取り組みであり、このことによって入居者間のコミュニケーションが図れている。入居者全員この空気感を好んでくれている。

HATCH京都の空間

HATCH京都の建物の特徴はいろいろあるが、まずは、表の竹の暖簾が素敵だと思っている。誰に話をしても、あの竹の暖簾のある京町家と分かってもらえる、そして中に入ると、とてもきれいに残されているおくどさんがあり、来る方々がびっくりされて、「ごはんとか焚いたりするの」とよく聞かれる。

そして、カフェスペースであり、入居者のコモンスペースである、主屋の3つの部屋の建具を取り払って、机を並べて使っているこのオープンな空間も気に入っている。

管理人だから、この立派な京町家の維持管理をやらなくてはいけないと思っていると、気持ちが折れそうになる。けれども、ある時、京町家の維持管理は家の者全員がかかわるものだという話を聞いて、少し気持ちが楽になった。そして月に一度、皆で掃除をする日を決めて掃除をした後に、話をして、最近思っていることだとかを話し合ってる。みんなで気になっていることを一斉にやるということは結構楽しかったりする。

HATCH京都と地域

この界隈には、すてきなお店も多い。売っておられるモノだけでなく、取り組んでおられる事柄も素敵だ。それ以上に、そのお店の人が素敵で、そのお店に買い物に行くのだけれども、そのお店の人と話をしに行くという感覚になれる。

商店街を歩いていると、挨拶できる人がいつもいることが嬉しかったりする。こうした人たちの魅力に惹かれてHATCH京都に住むことを決めてくれる人も多いので、皆がこの地域のことを好きになってくれるような関係づくりをして行きたいと思っている。横井さん自身もこの町で楽しく生きていきたいという気持ちでいるとのことである。

京都は元々あこがれの地であったし、今はHATCH京都に住めていることが幸せである。京都に観光できていた時に、京都は観光にはいいけど住むと大変だと聞いていたけれども、そんなことは全く無くて地域の人たちが優しく受け止めてくれている。スーパーで買い物をしていても、「いいお花買ったね」とか気軽に話しかけてくれる。コミュニケーションのハードルが低い感じが好きである。そして時間の流れがゆっくりだなと感じていて過ごしやすい。

これからのHATCH京都

HATCH京都のコンセプトは起行町家(きぎょうまちや)という言葉で表される。これは、HATCH京都のコンセプト作りをしているときにオーナーの荒川さんからいただいた言葉である。起業ではなく起行であり、行動を起こすことである。いきなり起業ではなく、まずは、自分がやりたいことは何なのかを考えて、自分のやりたいことに向かって行動を起こすということが大切だと意味である。それをここに集う人が皆で応援し合ったり、一人がこういうことをやりたいと声を上げたら、他の人がこういうことだったら一緒にできるという関係性ができると良いなと思う。自分一人だと面倒くさいことでも、本当にこんなことで良いのかなと思っていることでも、皆でそういうことを話しやすい環境で話すと「じゃあ、やろうよ」と話が前に進んでいく。そうしたことで、行動を起こしているという実感がある。

何かやりたいことがあったり、何かやりたいけど何をやって良いか分からないという人たちがここに来て、皆で行動を起こしていける場所にしていきたいし、そういう人たちに来ていただきたい。

個人的には、楽しいことをやっていきたいというタイプの人間であるが、何かやりたいことがあっても、直ぐにネガティブに考えがちな性格をしている。けれども、せっかくこういう場所にいるので、やりたいと思うことを皆に伝えてみて、とりあえずやってみるということをどんどんとやっていきたいと思っている。

先日、鳥取の「たみ」というシェアハウス兼ゲストハウス兼カフェ兼ギャラリーの営業形態がHATCH京都に似ているため、勉強になれば思い訪れた。そしたらそこは2012年から運営されていた。ゲストハウス兼シェアハウスから始まって、カフェもあったらいいよねということでどんどん業態が変わってきた。そして、そのシェアハウスに住んでいた人が、自分がやりたいことを実現するために物件を紹介してもらって、本屋さんを始めたり、奥さんがカフェを始めるなど、面白い町づくりに貢献していた。

HATCH京都もこういう具合に成長していったら面白いなと思った。HATCH京都の管理人となってまだ一年余り、今はこの状況を受け止め、とりあえず楽しいと思うことをやるということが今の横井さんの目指すところとなっている。

基本情報

HATCH京都

・住所   〒603-8205 京都市北区紫竹西高縄町17

・定休日  不定休(最新情報はSNSよりご確認ください)

・営業時間 10:00~18:00(最新情報はSNSよりご確認ください)

・URL  http://shin-oomiya.jp/shop/113/113.html 

・SNS https://www.instagram.com/hatch_kyoto_/