東京・恵比寿の伝説のデザートの店が京都で再開。
北区の大徳寺の北、今宮神社近くに昭和初期の町家を改装し、笑顔が素敵な磯谷さんの人柄が表れるような
伝統的な臙脂色の弁柄がチャーミングでモダンな外観が人目を引きます。
お菓子との出会い
磯谷さんのご出身は関西で、高槻で生まれて滋賀で育つ。お父様が京都生まれ京都育ちで、京都には縁があった。
昔から手に職をつけたいという思いがあり、飲食という世界がすごく好きで、学生時代から飲食店でアルバイトをする。また、カフェも好きで休みの日はカフェ巡りをする。美術系の専門学校に通いながら、20歳の時にサザビーズが京都大丸でやっているアフターヌーンティールームで働いた後、大阪のカンテグランデというチャイを広めた有名なカフェでアルバイトをする。ケーキ屋さんのケーキよりもそこの焼きっぱなしの存在感のあるケーキに心惹かれる。大阪に何件もあるお店のケーキを全て本店で焼いていた。20才代の前半に、イギリスにホームステイして帰ってきた時に、カンテグランデでお菓子作りをさせてほしいという希望が叶い、それからケーキ作りを仕事にするようになる。カンテグランデのスタッフは個性が強い人が多く、色々と学ばせてもらう。カンテグランデもアフタヌーンティーの仲間も今でもお付き合いが続いている。食べに来てくれたり、相談に乗ったりしてくれる。
恵比寿からポートランド・バークレイを経て京都へ
磯谷さんが26歳の時に、ご両親の発案で高槻に家族でお店を出し、3年ほど手伝うことになる。カンテグランデでお菓子作りをやっていたので、アフタヌーンティーのような3段重ねのデザートを提供するカフェを経営する。それで、飲食はもう十分にやったという気持ちになっていたが、30歳になった頃に、次に何をしようかと色々と迷う。あまり働きたいと思うお店が無く、唯一、東京のナチュラルハーモニーというオーガニックのお店の存在が気になる。運よく、履歴書を送ってしばらくしてお菓子の担当に空きができたので、東京に出ることになる。
そのお店は完全にオーガニックな素材しか使わない素晴らしいお店だったが、1年過ごした頃に、自分にはケーキしかないと思って独立する覚悟を決める。その後、1年間務めた後に、2005年に独立して歩粉を立ち上げ、ネット通販事業を始める。
素材を大切にし、粉や素材たちが形を変えておいしいものにかわり、食べた人の気持ちも、まあるく前を向いて歩いていけたらいいな、という思いで「歩粉」(hoco)と名付ける。
1年後の2006年に恵比寿でお店を構える。東京で独立して活動していた期間は10年になる。けれども借りていた建物を取り壊すということになり、お店を閉めざるを得なくなる。その話が無ければ、ずっと恵比寿でやっていたかもしれない。全国から訪ねてくれるお客様が多かった。
2015年2月に恵比寿の店を閉めて、その年の3月にポートランドに語学留学する。その1年前に旅行でポートランドを訪れて、すごく良い町だという印象を持ち、この町なら住んでみたいと思う。お店を閉めたときは次のことは考えてなかったが、何をするにも英語ができた方が良いと思ってポートランドに行く。その後、知人の縁で、アメリカでもっとも予約の取れないレストランとして知られるバークレーの「シェ・パニーズ」のペイストリー部門でインターンを1年間経験する。アメリカのローカル&オーガニックなの先駆者であるアリス・ウォータースさんが地元の農家の人たちの賛同と協力を得ながら町の人たちと創り上げた伝説的なレストランで、お菓子作りだけでなく地産地消のライフスタイルを体験する。
その後、再度、1年近くポートランドで暮らし、2017年12月に日本に戻り、直後に京都でお店を探し始め、直ぐに今の店と出会い、2018年の1月にはこの店で開店することを決めて、両親や設計士と相談を始める。大家さんとの話がまとまったのは3月、そこからは開店に向けて急ピッチで作業が進む。その春には、「歩粉のポートランド&バークレー案内」の出版も控えており同時進行で忙しい日々を過ごす。
京都とポートランドは似たところもある。そのサイズ感や町中を川が流れていること、自転車が多いことなど、通ずるものがある。アメリカに居た時に「NHKワールド」というテレビ番組を英語の勉強がてら見ていた。その中に「コア京都」というプログラムがあり、伝統やお祭りなど様々な京都の紹介をしていた。それを見て、京都は世界の人から見てもすごい場所なんだなと実感する。それをアメリカから見ていたので、本当にすごい場所が近くにあったんだなと感じられた。アメリカの方も大阪ではなく、京都は行って見たいところで、東京か京都なら知っている。また、年齢を重ねた両親の近くで住むことも良いことだと思うようになったことも京都を選んだ理由の一つ。この年齢になって京都でお店を開くということが素直な選択だった。
店の外観は伝統的な弁柄を生かし、白いペンキ塗りで古い家具やアンティークの小物たちとも調和しモダンな雰囲気も感じさせる。食材も大徳寺納豆という伝統食材をうまくミックスしている。
ローカル&オーガニックな歩粉デザート
歩粉を代表するデザートフルセット。1皿目は定番の内容だが恵比寿時代と細かい部分が変わる。ポートランドとバークレーでローカル&オーガニックのライフスタイルとお菓子作りを学び、次にやるときは国産にこだわろうと思う。それで、国産の紅茶探しから始める。アメリカのオーガニックのアールグレイから静岡産有機紅茶の「丸子紅茶」に代わる。ストレートでもミルクティーでも美味しく、歩粉のお菓子に負けないコクのあるものを探してたどり着く。歩粉のデザートフルセットはイギリスのアフタヌーンティーのようなイメージで1皿目、2皿目と出しますので、食事代わりにもなるくらいボリュームがあるので紅茶の選定は重要なポイントとなる。
1皿目は、歩粉の代名詞となるスコーンにホイップクリームと和歌山のあさみ農園さんのイチジクを使った自家製のジャム(不定期でジャムの種類は変わります)、国産の蜂蜜が付く。そしてホイップクリームはお代わり自由。次に、和と洋がミックスした豆乳葛もちには杏子のコンポーネントと小豆の粒あんが添えられる。そして口直しのエコクラッカーサンドには、自家製のクラッカーに以前のアンチョビの代わりに大徳寺納豆バターを塗っています。大徳寺納豆とバターと合わせ、その上にゆで卵を刻んだものを載せ、ピクルスの薄切りが載る。
2皿目は、毎月内容が変わる。今回は、かぼちゃと黒糖のチーズケーキが載る。北海道の洞爺から取り寄せた恵比寿かぼちゃを使い、ケーキの土台にはココナッツサブレとバターとシナモンを砕いたものを敷き詰めて使う。磯谷さんが出版しているレシピ本にも掲載されている人気のデザートである。さらに落花生のシフォンケーキとサツマイモのプリンがのる。プリンには必ずソースを添える。プレーンのままでも美味しいが、甘さを控えめにしており、最初に一口そのままで食べ、次にソースをかけて味の変化を楽しむ。今日のソースはメープルミルクソース。さらに、千葉のみのり園さんの梨を添えている。概ね、こうした構成で提供する。ボリュームがあるので、お腹を空かせて食事代わりにしたり、飲物を別に頼まれて二人でシェアして食べる人もいる。
その他に、1皿目だけのデザートSセットと、スコーン2個付きのスコーンセットが提供される。
価格は、ホテルでいただくイギリス式のアフターヌーンティーセットと同程度だが、その満足感は非常に高い。一つ一つの素材がローカル&オーガニックで厳選され、まず、その物語に満足感を覚える。また、素材の組み合わせ方が巧みでデリケートで、それぞれの素材の味を感じながら一つ一つの完成度が非常に高い。さらに、全体の構成が良くて、食感も異なり、微妙な味わいに酔いしれる。一人で来てゆっくりと時間を過ごすことができるというのもうなずける。
お菓子をのせる食器は、「ムシメガネブックス」の熊淵未紗さんの作品で、お店でも販売する。カトラリー類は磯谷さんがアメリカ時代に少ずつ買い集めたビンテージを使用し、自ら手掛けた内装、家具調度とも相まって、ゆっくりとくつろぎながらデザートを頂ける空間となっている。
これからの歩粉
遠方のお客様がこのお店をめがけて訪問する。それで賑わっているので、地元の方は何の店だろうと不思議に思っておられた。開店から1年くらい経って、ようやくご近所の方が来られるようになり、少しずつ広まっているように感じる。
イベント出店やケータリングではなく、このお店でお菓子を提供することを大切にしている。まずは、お客様にこの店に来て食べていただくことを大切にし、次にテイクアウトで、遠方から来られた方にお土産として提供している。
そして、今は通販の準備をしている。遠方の方から歩粉のデザートが欲しいという要望をたくさんいただいているので、ここまで足を運んでいただけない方に、通販で提供する。ホームページ等ネットで買い物をしていただけるシステムをwebデザイナーの方と相談している。
歴史ある大徳寺や今宮神社に近く、ゆっくりとした時間が流れる京都の地で、「歩粉」が、これからどんな進化を見せてくれるか楽しみである。