中国語文化圏と日本語文化圏が交わる、お茶にまつわるたまり場

お茶には、「超える」力が潜んでいる。
お茶を飲むことで一瞬、無になり、新しい価値を創り出す。
それを繰り返す媒介となる空間「暗香庵」でありたい。

なんとも不思議な空間だ。入ると間口いっぱいを占める土間があり、その奥は板間で、長火鉢を囲むように座卓が配置されている。訪れた人は、地元の方、海外の方を問わずどなたにも中国茶を振る舞い(もういらないというまで、何杯でもいただける)、さまざまなおしゃべりをする。また、海外の方がに日本文化を体験していただく空間であり、1階では生け花体験、2階では茶道体験ができる。

豊子愷(ほうしがい)研究から暗香庵へ

豊子愷とは、中国の画家、随筆家、翻訳家、教育家。
佐藤さんは彼への関心から中国杭州で近代史研究を行う傍ら、行書、草書から大篆、甲骨文にわたる書道を学び、特産の美味しい中国茶(緑茶)を飲むという幸せな十数年を過ごす。お茶とシルクが特産で、西湖という世界遺産に象徴される美しい自然と1200万人もの人々が住むモダンな都市空間が同居する京都に似た都市に佇む大学で学び、教え、日本の茶文化を語り、中国茶を学ぶ生活を楽しむ。

大阪出身の佐藤さんだが、日本に帰るに際し、どの街で新たな生活をスタートさせようかと考えていた。お茶文化を発信するなら、中国でも文化的評判が高い京都しかないと思い、京都に拠点を置くことに決める。杭州の詩人・林逋が詠んだ詩に出てくる暗香疎影という言葉からその仕事場を暗香庵と名付ける。「何処とも知れずひっそりと漂ってくる梅の花香が目の前に広がる西湖と調和して、その美しさを一層感じさせる」この言葉は、中国語文化圏の人にとってうっとりとする言葉なのだそうだ。

京都の伝統文化・技術、匠の技による商品を中国語文化圏の人に発信するお手伝いを

中国や台湾の方の中には、日本が嫌いな人も沢山いますが、そういう方でも不思議と日本の匠を尊敬し、褒めてくれる。そのような方々に日本文化を伝え、その中でも、ビジネスチャンスを求めている方には京都の匠との繋がりを提供する。これが、暗香庵の出来ること。facebookやライン、ツイッターなどといった世界標準のSNSでは、中国大陸とは繋がることが出来ない。ウィーチャット、ウェイボーなど中国独自のインフラSNSでしか繋がることができない。さらに言えば、中国の方は、サービスや商品の提供側からの情報は信用せず、直接そこに行った人が下した評価を信用する。中国の方は、自分がした経験の評価を伝えることで、次に行く人の助けになればと考えている。今でも2~3ヶ月に一度、中国で研究活動をしている佐藤さんが運営する暗香庵の強みがここにある。

過渡期にあるインバウンドの中国人の受け皿としての暗香庵

現在、中国からの旅行客は、団体旅行から個人旅行に移行しつつある。連れ回され、買い物をさせられたお仕着せの旅行への嫌な記憶から、プライベートでゆっくりとした時間を京都で過ごしたいという旅行客が増えてきおり、そういう中国文化圏の方の受け皿として暗香庵が存在し、この地域の価値を高める役割を果たしている。